ハザードマップで浸水が想定される土地を売るとき|売主が先に確認することと、買い手への伝え方
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売ろうとしている土地を、ふと区のハザードマップで見てみたら、色が付いていた。浸水の想定区域に入っているらしい。「これでは売れないのでは」「黙っていたほうがいいのか」と、不安になった方も多いと思います。
結論から言うと、黙っていても意味がありません。買い手は契約の前に、必ずその情報を知ることになるからです。ならば売主が先に見て、先に伝えたほうが、話は落ち着いて進みます。この記事では、どの資料を見るか、告知書にどう書くか、買い手が何を気にするかを、順番に整理します。
結論
不動産の売買では、重要事項説明で「水害ハザードマップ上の物件の位置」を買い手に説明することが義務になっています。隠しても、契約前に必ず出る情報です。
だから売主は、自分で先にハザードマップを見て、分かったことを不動産会社と告知書に整理しておくのが得策です。浸水の想定があっても、売れなくなるわけではありません。
買い手は契約の前に必ず知る|2020年8月からの説明義務
先に答えると、水害ハザードマップ上の位置は、2020年8月から、売買の重要事項説明で説明することが義務になっています。
こと
不動産会社が、契約の前に、宅地建物取引士という資格者を通じて、買い手に物件の大事な情報を説明する手続きです。買い手はこの説明を受け、書面を見たうえで、契約するかどうかを決めます。
この義務を負うのは、売買を扱う不動産会社です。つまり、説明を受けるのは買い手です。売主に直接の説明義務があるわけではありません。ただ、売主にとっては大きな意味があります。
考えてみてください。不動産会社を通す売買なら、買い手は契約の前に、ハザードマップ上の位置を必ず耳にします。売主が黙っていても、情報は買い手に届くのです。しかも、売主が何も言わないまま契約の直前に出てきたら、買い手は「なぜ最初に言ってくれなかったのか」と感じます。話が止まったり、値引きの交渉が強く出たりしやすくなります。
逆に、売主が最初から「ここは区のハザードマップで、浸水の想定が出ています」と伝えていれば、買い手は覚悟したうえで検討に入れます。説明の場で驚かれることがなく、交渉も落ち着きます。
浸水の想定があるとき、伝えるタイミングで何が変わるか
売主が先に伝える
- 買い手が最初から織り込んで検討できる
- 契約の直前に話が止まりにくい
- 告知書にも書いてあるので、あとで揉めにくい
契約前の説明で初めて出る
- 買い手が驚き、不信感を持ちやすい
- 価格や条件の交渉が強く出やすい
- 白紙に戻る話になることもある
土地の形や道路の問題と違って、ハザードマップの情報は、売主が自分で先に調べて把握できるところが救いです。次の節から、その調べ方を見ていきます。
売主が先に見る資料|どこで、何を、持って行くか
先に答えると、見る資料は「区のハザードマップ」と「国のハザードマップのサイト」の2つで足ります。どちらも無料で、自宅で見られます。
ハザードマップは一種類ではない
ひとくちにハザードマップと言っても、災害の種類ごとに地図が分かれています。売る前に、少なくとも次は見ておきたいところです。
| 見る地図 | 何が分かるか |
|---|---|
| 洪水(浸水)のハザードマップ | 大きな川があふれたとき、土地に水がかぶる想定があるか。想定される水の深さの区分も色で出る |
| 内水(ないすい)のハザードマップ | 大雨で下水道や排水が追いつかず、街なかに水がたまる想定があるか |
| 高潮(たかしお)のハザードマップ | 台風などで海面が上がったとき、水が来る想定があるか |
| 土砂災害のハザードマップ | がけ崩れなどの警戒区域に入っているか(自分の土地が入っているかは、同じ地図で確かめられる) |
こと
川があふれたときなどに、水につかると想定されている地域のことです。想定は、国や都がシミュレーション(計算による予測)で作ります。「必ずここまで水が来る」という予言ではなく、一定の前提で計算した結果です。
東京23区の周辺区では、荒川・隅田川・中川などの大きな川の近くに、浸水の想定が出ている地域があります。ただ、地図は新しい計算が出るたびに見直されます。「何区だから浸水する」「この町なら大丈夫」と、言い切れるものではありません。自分の土地は、必ず、その時点の最新の地図で確かめてください。
見る場所は2つ
1つ目は、区のハザードマップです。区役所のホームページに載っていて、冊子の入手方法は区によって違います。無料で配る区もあれば、有料で売る区もあります。窓口の名前も区ごとに違うので、区役所のホームページか代表の電話番号で確かめてください。
2つ目は、国土交通省の「ハザードマップポータルサイト」です。この中の「重ねるハザードマップ」では、住所を入れると、洪水・土砂災害・高潮・津波などの情報を、地図に重ねて見られます。区をまたいだ比較にも使えます。国土交通省のサイトには、各市区町村が作ったハザードマップへのリンクをまとめた「わがまちハザードマップ」もあります。
見るときは、次の順で進めると迷いません。
- 登記簿や固定資産税の通知書で、土地の住所(地番)を手元に出す
- 重ねるハザードマップで、住所を入れて洪水の想定を見る
- 区のハザードマップで、同じ場所を確かめる(国の地図と区の地図で、載っている情報が違うことがある)
- 見たときの画面や、印刷した地図を、日付と一緒に保存しておく
4番は地味ですが役に立ちます。ハザードマップは見直されるため、「売るとき、こう出ていた」という記録があると、あとで話が食い違いにくくなります。
ポイント
調べる目的は、「安全か危険か」を決めることではありません。買い手に聞かれたとき、自分の土地について何が出ているかを、売主が答えられる状態にすることです。
浸水の想定が出ていたからといって、焦る必要はありません。次は、それを不動産会社と買い手にどう伝えるかです。
先に伝えるとき|不動産会社への話し方と、告知書の書き方
先に答えると、不動産会社には、見つけたその日に伝えるのがいちばんです。そして、告知書(物件状況報告書)には、見て分かったことを、見たまま書きます。
不動産会社への伝え方
仲介を頼む不動産会社には、売り出す前の相談の段階で、こう話してください。
- 区のハザードマップで見たところ、洪水の浸水想定が出ていたこと
- 過去に、この土地や近所で、水が上がったり、水がたまったりしたことを知っているか(知っていれば)
- 地図を保存してあること
不動産会社は、調べたうえでハザードマップ上の位置を説明する立場です。売主が先に情報を持っていれば、話は早く進みます。売主自身の経験も、大切な情報です。
ここに
ハザードマップに出ていない「経験」も伝えましょう。例えば、大雨のあとに庭や道路に水がたまった、床下まで水が来たことがあるのように、売主が実際に見聞きしたことです。知っていて伝えなかったとして、後から問題になることがあります。
告知書に書くこと
告知書とは、売主が知っている土地や建物の状態を、買い手に伝えるための書面です。売買契約のときに、契約書とあわせて使われます。
こと
雨漏りやシロアリ、近隣とのトラブルなど、売主が知っている不具合や事実を書いて、買い手に渡す書面です。書式は不動産会社が用意します。
書式は不動産会社によって違います。「浸水・冠水の経験」を書く欄があるかを、渡された書式で確かめてください。欄があれば、知っていることを、事実のまま書きます。書き方のコツは3つです。
- 見たままを書く:「区のハザードマップで洪水の浸水想定区域に入っている」など、事実だけを書く
- 知らないことは「不明」と書く:推測で「大丈夫」と書かない
- 経験があれば、いつ頃・どの程度かを書く:正確な日付が分からなければ、「数年前の大雨のとき」程度でかまわない
こうして書いておくと、買い手も「知らなかった」とは言いにくくなります。売主にとっては、伝えるべきことを伝えた記録が、自分を守る材料になります。
売ったあとに、土地の状態で責任を問われる仕組みについては、契約不適合責任の免責とは?土地を現状のまま売るときの注意点で整理しています。「知っていて伝えなかった」ことは、免責の特約があっても守ってもらえない点が、特に大切です。
買い手が気にすること|ローン・保険・建て方の3つ
先に答えると、浸水の想定がある土地で買い手が気にするのは、主に「ローンが通るか」「保険はどうなるか」「建て方で対応できるか」の3つです。売主が先に頭に入れておくと、質問に答えやすくなります。
ここから先は、買い手が確認すること、つまり買い手側の話です。売主が対応を約束したり、保証したりする内容ではありません。
住宅ローンの審査
買い手が土地を買い、家を建てるときに住宅ローンを使うなら、金融機関の見方が効いてきます。金融機関が土地の評価をどう見るかは、金融機関によって違います。ハザードマップの情報を、どれくらい重く見るかも一律ではありません。買い手は、契約の前に、金融機関に確認します。
売主ができることは、買い手が確認する時間を取れるように、早めに情報を出しておくことです。契約の直前に出すと、買い手が確認する時間が足りません。
火災保険(水災の補償)
火災保険には、水害の被害を補償する「水災」の項目があります。付けるかどうか、どんな条件になるかは、保険会社や商品によって違います。買い手は、土地や建物の所在地で、水災の補償がどうなるかを気にすることがあります。保険料や条件は、買い手が保険会社に確かめることです。
売主が、買い手に保険の加入を勧めたり、条件を請け合ったりする必要はありません。買い手が確認できるように、聞かれたら「保険会社に所在地を伝えて確認してください」と答えれば十分です。
建て方での対応
浸水の想定がある地域では、建物の建て方で対策を考える買い手もいます。例えば、次のような工夫です。
- 基礎(建物を支える土台)を、少し高くする
- 1階を駐車場や物置にして、居室を2階以上にする
- 電気の設備を、高い位置に付ける
こうした建て方は、建築費が上がることもあれば、土地の形や広さによっては難しいこともあります。どこまで対応するかは、買い手が設計者と相談して決めることです。狭い土地で3階建てを考えている場合は、狭小住宅(木造3階建て)の記事も参考になります。
買い手が確認する流れ(例)
- ハザードマップの説明を受ける重要事項説明で、物件の位置を聞く
- ローン・保険を確認する金融機関と保険会社に、所在地で確かめる
- 建て方を考える基礎や間取りの工夫を、設計者と相談する
- 契約するかを決める条件がそろえば契約へ進む
売主が先に情報を出しておくほど、この確認が早く終わり、契約まで進みやすくなります。
価格はどう考えるか|同じ広さでも、同じ値段にはなりにくい
先に答えると、浸水の想定がある土地は、条件が同じなら、想定のない土地よりも価格の話し合いが厳しくなる場合があります。ただし、「いくら下がる」という決まった数字はありません。
価格は、駅からの距離、道路の条件、土地の形、周りの取引など、いろいろな要素で決まります。ハザードマップの情報は、その中のひとつにすぎません。しかも、買い手がどう受け止めるかは人によって違います。
川の近くでも、駅が近くて道路条件がよければ、よく売れる土地もあります。逆に、浸水の想定がなくても、旗竿地や再建築不可の土地は、買い手が限られます。価格を考えるときは、ハザードマップだけを理由にせず、土地全体の条件で見てください。
価格を調べるときの進め方
売主ができるのは、次の順番です。
- ハザードマップを自分で見て、記録を残す
- 同じ地域の、近い条件の売り出し情報や取引事例を調べる
- 不動産会社に、ハザードマップの情報を伝えたうえで、価格の見方を聞く
- 複数の会社の話を聞いて、見方の幅をつかむ
大事なのは、3番です。ハザードマップの情報を伝えずに出してもらった価格は、あとで見直しになりかねません。最初から伝えておけば、現実的な価格の幅が分かります。
売却全体の進め方は、土地売却の流れと期間|相談から引き渡しまでの8ステップにまとめています。ハザードマップの確認は、このうち、不動産会社に相談する前後にやっておくと流れがよくなります。
川沿いの低地の区は、区の記事で|足立・葛飾・江戸川・墨田
先に答えると、区ごとの事情は、区の記事のほうに詳しく書いています。ここでは、荒川・隅田川・中川などの周辺に、浸水の想定が出ている地域があるという点だけ押さえてください。
低い土地の多い区では、水害の話が売却の相談でよく出ます。各区の記事では、区の事情に合わせた売り方も整理しています。
- 足立区:足立区の土地・狭小地の売却ガイド
- 葛飾区:葛飾区の土地・狭小地の売却ガイド
- 江戸川区:江戸川区の土地・狭小地の売却ガイド
- 墨田区:墨田区の土地・狭小地の売却ガイド
これらの区でなくても、川や海の近く、低い土地、昔の川筋や池の跡のような場所では、浸水の想定が出ていることがあります。反対に、書いた区に住んでいても、自分の土地に想定が出ているかは別の話です。どの区でも、自分の土地は、自分の目でハザードマップを見て確かめるのが基本です。
高低差や擁壁がある土地は、別の確認が要る
水害のほかに、土地に高低差や擁壁(がけを支える壁)があるときは、また別の確認が要ります。土砂災害の警戒区域に入っているかどうかも、売買では説明される項目のひとつです。高低差のある土地の考え方は、がけ条例とは?高低差・擁壁のある土地の売り方と注意点で解説しています。
水害とは別に、地震のときの地盤の話(液状化)も、買主の関心に入ることがあります。重要事項説明の項目には入っていませんが、売主が先に確かめておけることがあります。液状化のおそれがある土地を売るときで整理しました。
浸水の想定がある土地が、いくらくらいで売れそうか。ハザードマップの情報を伝えたうえで、複数の会社の査定額を並べてみると、見方の幅がつかめます。
よくある質問
Q. ハザードマップで浸水の想定が出ていたら、売れませんか?
売れないわけではありません。想定の有無だけで、売れる・売れないが決まるわけではないからです。買い手は重要事項説明で位置を知り、そのうえで検討します。売主が先に確認して伝えておけば、検討はスムーズに進みやすくなります。価格の話し合いでは、条件が厳しくなる場合があります。
Q. 売主はハザードマップのことを、自分から言わなければいけませんか?
不動産会社を通す売買では、不動産会社が買い手に説明します。そのため、売主が黙っていても情報は買い手に届きます。ただ、売主が先に伝えたほうが、話が落ち着いて進みます。過去に水がたまった経験など、売主だけが知っていることは、告知書に書いて伝えてください。
Q. 過去に浸水した経験があるときは、どうすればいいですか?
知っている範囲で、事実のまま告知書に書きます。いつ頃のことか、どの程度だったかが分かればあわせて書き、分からないところは「不明」とします。伝えておけば、あとから「聞いていない」と言われにくくなります。
Q. ハザードマップが見直されて、売り出し後に内容が変わったら?
ハザードマップは、新しい計算が出ると更新されます。売り出し中に更新があったときは、不動産会社に連絡してください。契約の前に説明するのは、そのときに出ている最新の情報です。確認した日付つきの記録を残しておくと、話が食い違いにくくなります。
Q. 火災保険や住宅ローンは、売主が心配しなくていいですか?
買い手が確認することなので、売主が保証したり、請け合ったりする必要はありません。買い手が金融機関や保険会社に確かめられるよう、早めに情報を出しておくのが売主の役目です。
まとめ
- 水害ハザードマップ上の位置は、2020年8月から、売買の重要事項説明で説明することが義務になっている。買い手は契約前に必ず知る
- だから売主は、先に自分で見て、先に伝えるほうが有利。見る場所は、区のハザードマップと国の「重ねるハザードマップ」
- 告知書には、見たままの事実を書く。知らないことは「不明」とし、過去の浸水の経験があれば伝える
- 買い手は、ローン・保険・建て方の3つを確認する。売主は約束せず、早めに情報を出す
- 価格に決まった下落の数字はない。「何区だから」と決めつけず、自分の土地を最新の地図で確かめる

