隣の持ち主が亡くなっていて分からない|境界の立会いなしで売る前にできること
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土地を売ろうとして測量を頼んだら、「隣の方に立会いをお願いします」と言われた。ところが、隣は空き家になっていて、持ち主は亡くなっているらしい。相続人が誰なのか、どこにいるのかも分からない。頼もうにも、頼む相手が見つからない状態です。
隣が「断っている」のなら話し合いの余地があります。今回は、そもそも「応じようがない」場面です。この記事では、売る前に調べること、測量のために隣地に入れるのか、法務局の運用見直しで分筆や地積更正の登記がどう変わったか、そして買い手の納得とは別の話になる点を、順番に説明します。
結論
隣の持ち主が分からなくても、売ること自体は止まりません。測量は、隣地を使える決まりがあります。分筆や地積更正の登記も、令和4年10月から、隣の押印がなくても進められる場合があります。
ただし「登記が進む」ことと「買い手が納得する」ことは別です。買い手が境界の書類を求めるかどうかは、買い手ごとに違います。
「断る隣」と「応じようがない隣」は別の問題
先に整理すると、相手の気持ちが問題なのか、相手がいないことが問題なのかで、打つ手が変わります。
隣の人が立会いを断っているなら、説明の仕方を変えたり、法務局の筆界特定制度を考えたりします。その場合は隣が境界の立会いに応じないとき|筆界特定制度と売却への影響にまとめました。
この記事は、その手前の場面です。隣の名義人が亡くなっている。相続の手続きが済んでいない。相続人が分からない、または遠方で連絡がつかない。説得したくても、説得する相手が見えません。
ここで焦って、自己判断で隣の敷地に入ったり、境界の杭を自分で打ち直したりしないでください。測量のために隣地を使える決まりは次の節で説明しますが、進め方は調査士と相談してからです。後から相続人が現れたとき、もめごとの種になります。
まず売主が調べること|隣の名義と、現地の様子
最初にやるのは、隣の土地の登記簿で、今の名義人を確かめることです。法務局で登記事項証明書を取れば分かります(法務局の案内では、土地の登記事項証明書は名義人以外でも請求できます。請求には地番が必要で、隣の地番は住宅地図や公図で調べます)。
見るのは次の3点です。
- 名義人の名前と住所(亡くなった親の名前のままのことがあります)
- 名義人の住所が、今も隣の建物の所在地と同じか
- 抵当権などの権利が、まだ付いていないか
名義が亡くなった人のままなら、相続登記が済んでいないということです。相続登記は今は義務になっています(相続登記の義務化とは?)が、昔からの名義のままの土地は残っています。
現地では「人の気配」を見るだけにする
隣の建物に郵便物がたまっていないか、表札があるか、電気メーターは動いているか。外から見える範囲で様子をメモしておきます。調査士や不動産会社に事情を話すとき、役に立ちます。建物の中をのぞく、敷地に入って確かめる、といったことはしないでください。
相続人を探す手続きは、専門家の仕事
名義人の相続人を戸籍からたどって探す作業は、売主が自分でやる話ではありません。第三者が戸籍をどこまで取れるかは条件があり、ここでは断定しません。相続人の調査や、家庭裁判所に管理人を選んでもらう手続き(不在者財産管理人・相続財産清算人)は、司法書士や弁護士に相談する領域です。費用や期間は、事案で大きく変わるので、この記事には書きません。
ここに
隣の相続人を探す作業は、売主が必ずやらないといけないものではありません。探さずに進める道が、次の節以降にあります。先に専門家に頼むと費用がかかるので、全体の道筋を見てから決めましょう。
測量のために、隣の土地に入れるのか
隣の人に許可をもらえなくても、境界を調べる測量のために、隣の土地を使える決まりが民法にあります。
民法の「隣地の使用」の規定には、境界標の調査や境界に関する測量のために、必要な範囲で隣地を使えるとあります。使う日時・場所・方法は、隣に与える損害がいちばん小さいものを選ぶ決まりです。
こと
自分の土地で境界の測量や工事をするために、必要な範囲で隣の土地を一時的に使える権利です。使った結果、隣に損害が出たら、償金(お金)を払う必要があります。
隣が亡くなっていて、通知する相手が見つからない場合はどうなるのか。民法には、あらかじめ通知することが困難なときは、使い始めた後に遅滞なく通知すれば足りるという定めがあります。ただし、隣の建物の中に人が住んでいる場合は、その居住者の承諾が要ります。条文は「住家(住んでいる家)」と書いているため、人が住んでいない空き家や荒れた敷地にどう当てはまるかは、条文だけでは言い切れません。実際に測量する調査士に確かめてください。
「入れる」ことと「境界が決まる」ことは別
この規定でできるのは、測量のために入ることまでです。測った結果を、隣が認めたことにはなりません。隣の相続人から後で「そこは違う」と言われる可能性は残ります。
測量を頼む調査士には、「隣の名義人が亡くなっていて、相続人が分からない」と最初に伝えてください。調査士は、法務局の資料を調べ、どこまで進められるか見立ててくれます。
法務局の運用見直し|隣の押印がなくても、分筆や地積更正が進む場合
ここが、この記事でいちばん知っておいてほしいところです。令和4年10月3日から、全国の法務局で、隣の土地の所有者の確認が得られない場合の登記の運用が見直されました。
土地を分ける「分筆の登記」や、登記簿の面積を直す「地積更正の登記」では、隣の土地との境(筆界)を確かめる必要があります。これまでは、隣の所有者と取り交わした確認の書面(筆界確認情報)を付けるのが実務でした。隣が分からないと、この登記が円滑に進みにくかったのです。
法務省民事局の資料(令和4年10月)によると、隣の所有者が不明な土地や、相続人が多数いる土地などについて、見直しの中身は次の3点です。
運用見直しの3つの中身(法務省民事局の概要より)
- 確認の書面を求めない場合がある登記官の調査で筆界が明確と認められるとき(精度の高い地図があるときなど)
- 相続人全員でなくてよい相続人のうち、現にその土地を占有している人だけで足りるなど、求める範囲を必要最小限にする
- 押印と印鑑証明書は求めない隣地の所有者の押印や印鑑証明書の添付は不要
売主にとっての意味は、隣の持ち主が分からなくても、分筆や地積更正の登記を最初から諦めなくてよいということです。法務省の資料にも、筆界を確かめることの大切さは従来と変わらず、適正さは登記官の調査で確保する、とあります。書類が楽になるだけで、手を抜いてよいわけではありません。
また、分筆は土地の一部を売るときなどの登記、地積更正は登記簿の面積が実際と違うときの登記です。土地を丸ごと売るだけなら、必ずやる登記ではありません。自分の売り方で必要かどうかは、調査士に聞いてください。
使えるかどうかは、法務局と調査士に確かめる
見直しが使えるのは、対象に当てはまる土地です。精度の高い地図があるかどうかなど、登記官の判断にかかる部分もあります。この記事は法務省の概要に沿って書いています。個々の土地で使えるかどうかは、管轄の法務局か、土地家屋調査士に聞いてください。
分筆の費用や手順そのものは、土地を分筆して売るときの費用と手順で説明しています。
「登記が進む」と「買い手が納得する」は別の話
売主が見落としやすいのが、ここです。先ほどの運用見直しは、登記を申請するときの、法務局の扱いの話でした。土地を買う人や、買い取る業者が何を求めるかは、別に決まります。
登記の話と、売買の話(分けて考える)
登記(法務局)
- 分筆・地積更正の申請の扱い
- 隣の押印や印鑑証明書は求めない運用
- 登記官が調査して判断する
売買(買い手)
- 境界確認書を条件にするかは、買い手しだい
- 融資を使う買主は、金融機関の求めも関わる
- 未確定を承知して買う人もいる
たとえば、登記が通る見込みがあっても、建売の業者が「隣の署名入りの境界確認書がないと買えない」と言えば、その会社は買い手になりません。逆に、境界の書類がなくても、現況のまま買い取る会社もあります。登記ができるようになった、は、売りやすくなった、とイコールではありません。
だから、順番としては次のようにします。
売主の順番(例)
- 隣の名義と現地の様子を確かめる登記簿で名義人を見る。外から様子をメモする
- 調査士に事情を話す測量の進め方と、登記が進められそうかを聞く
- 買い手に境界の書類を求められるか聞く買取の会社や不動産会社に、書類なしでの条件を聞く
- 必要なら専門家に相続人探しを頼む司法書士・弁護士に相談する
3番を、4番より先に置きました。相続人を探すと費用も手間もかかります。その前に、書類がなくても進められる買い手がいるかを聞いておくと、探す必要があるのかどうかを判断できます。
隣の持ち主が分からない中で、何から手を付ければいいか迷う場合は、土地の状況に合わせて手順を一緒に整理します。
隣の書類なしで売る|買い手の探し方と契約の注意
境界確認書がそろわない土地でも、売り方はあります。境界の状態を正直に伝えたうえで、それを受け入れる買い手に売ることです。
| 売り方 | 境界の書類 | 向いている場面 |
|---|---|---|
| 仲介で一般の買い手に売る | 求められやすい。融資を使う買主は特に | 隣の件を先に片付けられる見込みがあるとき |
| 買取の会社に売る | 現況のまま見てもらえる会社もある | 早く、書類なしで進めたいとき |
| 隣地側の事情が片付くのを待つ | 相続人が決まれば書面を取れる | 急がず、隣の相続が動きそうなとき |
買取の会社の探し方や、見積もりで確かめる点は、土地の買取業者を探すときの種類分けと、見積もりの5つの確認点で説明しています。価格は、境界が確定している場合より下がりやすいと考えておきましょう。どれだけ下がるかは土地と買い手で違い、数字では言えません。
契約では、境界が未確定であること、隣の名義人が亡くなっていることを隠さず、書面に書きます。知っている事情を伝えずに売ると、あとで責任を問われることがあります(契約不適合責任の免責とは?)。
最後の手段|裁判所に管理人を選んでもらう
どうしても境界を固めたい場合、裁判所に管理人を選んでもらう制度があります。隣の持ち主が分からない土地には、民法の「所有者不明土地管理命令」という仕組みがあります。裁判所が、所有者を知ることができない土地について、利害関係人の請求で、管理人による管理を命じるものです。
ただし、これは隣地を管理するための制度で、境界を確定させる魔法ではありません。使うかどうか、申立てができる立場かどうかは、弁護士か司法書士に相談して決めます。費用や期間は事案で変わるため、この記事では書きません。筆界そのものを争う手段としては、法務局の筆界特定制度もあります(筆界特定制度の仕組みで説明しています)。
この
隣の持ち主が分からなくても、測量のための隣地使用と、法務局の運用見直しという2つの足場があります。ただし、買い手の納得は別。売り方を決める前に、買い手が書類を求めるかどうかを聞いておくのが、遠回りに見えて近道です。
隣の件が片付くまで売れない、と決めつける前に、複数の会社に今の状態で相談してみると、書類なしで話が進む相手がいるかどうか見えてきます。
よくある質問
Q. 隣の持ち主が亡くなっていると、土地は売れませんか?
売れます。隣の件は、売る土地の「境界の書類」に関わるだけで、売る権利には影響しません。ただし、買い手によっては境界の書類を求めるため、売り方や価格に影響することがあります。
Q. 隣の相続人が見つからないと、測量はできませんか?
できます。測量のために隣地を使える民法の決まりがあり、あらかじめ通知できないときは使い始めた後の通知でよいとされています。住んでいる人がいる建物には、居住者の承諾が要ります。実際の進め方は、測量を頼む調査士に確認してください。
Q. 分筆するのに、隣の印鑑証明書は必要ですか?
令和4年10月3日からの運用見直しで、隣地の所有者が不明な場合などは、隣の押印や印鑑証明書は求めない扱いになっています。使えるかどうかは土地により異なるので、管轄の法務局か調査士に確認してください。
Q. 登記が通れば、買い手は境界を気にしませんか?
いいえ。登記の扱いと、買い手が求める書類は別の話です。境界確認書を条件にする買い手もいれば、現況のまま買う会社もあります。
まとめ
- 隣の持ち主が亡くなっていても、売ること自体は止まりません。「応じようがない」場面は、断られる場面とは打つ手が違います。
- まず隣の登記簿で名義人を確かめ、現地は外から様子を見るだけにします。相続人探しは司法書士・弁護士の領域です。
- 測量のために隣地を使える決まりがあり、通知が難しいときは事後の通知でよいとされています。
- 令和4年10月から、法務局は隣地の所有者が不明な場合の分筆・地積更正の運用を見直しました。ただし買い手が納得するかは別の話です。
- 相続人探しの前に、書類なしで進められる買い手がいるかを聞くと、遠回りを避けられます。
出典:民法の「隣地の使用」「所有者不明土地管理命令」の各規定(e-Gov 法令検索 API v2、版ID 129AC0000000089_20260624_508AC0000000045、施行日 2026年6月24日)。法務省民事局「所有者不明土地対策のための筆界認定に関する表示登記の運用見直し 概要」(令和4年10月)。法務省「隣の土地の所有者が分からなくてお困りの方へ(分筆や地積更正の登記のとき)」。法務局「他人が所有する土地の登記事項証明書を取得することができますか?」(岡山地方法務局の案内。ほか盛岡・松山の各地方法務局も同旨)。いずれも2026年10月12日に閲覧。


