隣との隙間がなく足場が組めない古家|隣地を使う決まりと解体前の段取り
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古家を壊して土地を売ろうと業者に見てもらったら、「隣との隙間が狭くて、足場が敷地の中に収まりません」と言われた。23区の古い住宅地では、実際にある話です。隣の家との間が数十センチしかないと、壁際に足場を立てる場所そのものがありません。
この記事では、隣の土地を一時的に使うための民法の決まりと、売主が解体を頼む前に隣へ何を伝えるかを、順番に説明します。断られたときの進め方や、古家付きのまま売る道にも触れます。
結論
家を壊すために隣の土地を使うことは、民法で認められています。ただし使う前に、目的・日時・場所・方法を隣へ知らせることが決まりで、人が住んでいる家に入るには、住んでいる人の承諾が要ります。まず業者に「隣地のどこを、いつ、どう使うか」を書いてもらい、それをもとに隣へ話を持っていく順番です。断られたら、足場の組み方を変える道と、古家付きのまま売る道があります。
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隣との隙間がないと、なぜ解体が止まるのか
隙間が狭い古家では、足場が自分の土地からはみ出します。はみ出した先が隣の土地なら、そこを使う話を先に片づけないと、工事が始まりません。
足場とは、高いところで作業する職人が乗る仮の通路のことです。家の外壁に沿って組み、壊した破片が飛び散らないよう、シートで覆います。外壁と足場のあいだにも作業の幅が要るので、壁から少し離れた位置に立てることになります。
隣との隙間が数十センチだと、この立てる場所が自分の敷地の中に取れません。出る先は、おおまかに2つです。
- 隣の土地の上(隣地使用の話になる)
- 前の道路の上(道路を管理する側の許可の話になる)
道路側に出すなら、道路占用の許可が要ります。例えば墨田区は、足場を区の道路に出すときの手続きと基準を案内ページで公開しています。区の道路かどうかの確かめ方も載っています。私道や都道の場合は、それぞれの管理者が窓口です。
もう一つ見落としやすいのが、屋根や雨どいの張り出しです。屋根の軒が隣に出ていたり、隣の軒がこちらに出ていたりすると、足場だけでなく解体の作業そのものに隣の協力が要ります。この点は、屋根や塀が隣に出ている土地の売り方に詳しく書いています。
隣との距離で費用が変わる話は、木造の解体費用は何で決まるかの見積もりの見方に入っています。この記事は、その見積もりの前に「隣へどう話すか」を扱います。
隣地を使える決まり|2023年4月の民法改正で整理されたこと
隣地は、必要な範囲で使えると民法に書かれています。使う前の通知と、住んでいる家への立ち入りの承諾が、条文で定められています。ここは法律の話なので、条文の言葉に沿って説明します。
改正前の条文は、「隣地の使用を請求することができる」という書き方でした。改正後は「隣地を使用することができる」となり、使う前に隣へ知らせることが義務として加わっています。
この記事に関わる大きな変更が、もう一つあります。改正前の目的は「障壁又は建物を築造し又は修繕する」ことだけで、取り壊しを指す言葉は書かれていませんでした。改正後は「築造、収去又は修繕」となり、「建物その他の工作物」の収去が加わっています。収去とは、取り壊して取り除くことです。古家を壊す作業は、この言葉に当たると読めます。法務省の資料も、改正で認められる目的に「収去」が加わったことを示しています。
条文の中身を、売主が気にする順に並べます。
| 項目 | 条文に書かれていること | 売主にとっての意味 |
|---|---|---|
| 使える目的 | 境界またはその付近で、塀や建物などの築造・収去・修繕をするとき | 古家を壊す作業が入る |
| 使える範囲 | 目的のために必要な範囲内 | 足場が必要な範囲かは、現場ごとに見る |
| 使い方 | 日時・場所・方法は、隣に与える損害が最も少ないものを選ぶ | 業者に、隣の負担が少ない計画を立ててもらう |
| 事前の通知 | あらかじめ、目的・日時・場所・方法を、隣の所有者と、隣を実際に使っている人へ知らせる | 通知の義務を負うのは、隣地を使う側。工事を頼む売主も段取りに関わる |
| 通知の例外 | あらかじめの通知が難しいときは、使い始めたあとすぐに知らせればよい | 急迫の事情がある場合や、隣の所有者の所在が調べても分からない場合が、法務省の資料で例に挙がっている |
| 住家への立ち入り | 住家は、その居住者の承諾がなければ立ち入れない | 隣の家に入る話になるときは、住んでいる人の承諾が前提 |
| 損害の償金 | 隣に損害が出たら、償金(損害を埋め合わせるお金)を請求される場合がある | 傷や汚れが出たときの扱いを、先に決めておく |
こと
自分の土地で工事をするために、必要な範囲で隣の土地を一時的に使うことです。借りる契約ではなく、民法に書かれた権利として認められています。使ったあとは元の状態に戻すのが前提です。
ここで、条文に書かれていないことを一つはっきりさせておきます。条文は「足場」という言葉を使っていません。条文が認めているのは、塀や建物などの築造・収去・修繕のために「必要な範囲内」で隣地を使うことです。足場がその範囲に入るのか、どこまで出せるのかは、条文からも、確認できた法務省の資料からも線を引けませんでした。法制審議会(法務大臣の相談を受けて法律案を検討する会議)の検討段階の資料には、建物の修繕工事のために隣地へ足場を組む場面が例として出てきます。ただし、これは検討中の案の説明です。最終の条文や解説が「足場を出せる」と書いたものではありません。足場を隣に出せるかどうかは、現場の広さや工事の内容を見て判断されるので、「民法で認められているから必ず出せる」とは言い切れません。
また、上の表の「住家」は、人が住むための家のことです。条文は、住家に立ち入るときの承諾の相手を「居住者」としています。隣が空き家で、いま住んでいる人がいないとき、その建物が住家に当たるのか、承諾を誰からもらうのかは、条文の言葉だけでは決まりません。調べた法務省の資料にも、空き家の扱いは書かれていませんでした。
条文の言葉から言えるのは、次の2点です。
- 承諾が要るのは、「住家に立ち入る」とき。隣の土地の上に足場を立てるだけで、建物には入らない計画なら、この承諾の話は出てきません。
- 隣地の所有者への通知は、住家かどうかに関わらず、条文で求められています(空き家の所有者も同じです)。
空き家の建物の中や壁ぎわに入る必要が出てきそうなときは、自分で判断せず、弁護士に相談してください。持っていくものは、隣の土地と建物の登記事項証明書、現地の写真、業者が書いた「どこをどのくらい、いつ使うか」の計画、隣の所有者に連絡を試みた記録(手紙の控えなど)です。
頼む前に、隣へ何をどの順番で伝えるか
順番は、業者に計画を書いてもらうところから始まります。売主が先に隣へ話しに行っても、「どこに、いつ、どれだけ」が決まっていないと、隣は返事のしようがありません。
隣地を使う解体の、頼む前の流れ
- 業者に現地を見てもらう足場が隣に出るか、どこをどのくらい使うかを聞く
- 隣の所有者と、住んでいる人を調べる法務局で隣の登記事項証明書を取り、所有者を確かめる
- 目的・日時・場所・方法を書面にする使う前に、隣へ渡せる形にしておく
- 隣へ知らせ、住家に入るなら承諾をもらうあいさつを兼ねて、直接会って渡す
- 約束を残して契約・着工傷や汚れが出たときの扱いも書き残す
1. 業者に、隣地をどう使うかを書いてもらう
見積もりを頼む段階で、「隣に足場が出るなら、どこにどのくらい、いつからいつまで必要か」を聞きます。同時に、足場を隣に出さずに済む組み方があるかも聞いておきます。隣の負担が少ない計画ほど、条文の「損害が最も少ないものを選ぶ」にも沿います。
通知の文面や図を、業者が用意してくれるかどうかは会社によって違います。「通知を誰が作って、誰が渡すか」を、契約前に決めておきます。条文で通知の義務を負うのは、隣地を使う側です。工事を頼む売主も無関係ではないので、実際の段取りは業者と分担して決めます。
2. 隣の所有者と、実際に使っている人を調べる
隣の家に住んでいる人が、土地の所有者とは限りません。借りて住んでいる人もいれば、持ち主が離れた場所にいる空き家もあります。条文は、「隣の所有者」と「隣を実際に使っている人」の両方への通知を求めています。
所有者は、法務局で隣の土地の登記事項証明書を取ると分かります。地番(土地ごとの番号)が必要なので、住宅地図や、売る土地の登記の資料で隣の地番を調べます。取れるのは、登記簿に載っている所有者の名前と住所までです。借りている人は登記に出ないので、表札や管理会社の掲示で確かめます。
3. 伝える内容を、書面にしておく
口頭で足りるかどうかを、条文は細かく決めていません。ただ、あとで「聞いていない」と言われないよう、書面を残しておくのが安全です。
隣へ
- 目的:古家の解体工事のために使う
- 日時:何月何日から何月何日まで、何時から何時まで
- 場所:隣のどの部分か(図や写真を付ける)
- 方法:足場をどう組むか、シートで覆うか、終わったらどう戻すか
この4つは、条文が通知に入れるよう求めている項目と同じです。業者の連絡先と、苦情を受ける窓口も一緒に書いておくと、隣は相談しやすくなります。
4. 住んでいる家に入る話なら、承諾をもらう
条文が承諾を求めているのは、「住家」に「立ち入る」ときです。足場が隣の土地の上に立つだけで、建物には入らない計画なら、この承諾の話にはなりません。
ただ、条文は「住家」とだけ書いていて、建物のまわりの庭や外壁ぎわの作業がどう扱われるかには触れていません。この記事では、そこに線を引けません。承諾が要るのかどうかが分からないときは、承諾をもらう前提で話を進めます。
ここに
通知は、隣に知らせるための手続きです。知らせたから、隣が使わせてくれるとは限りません。住んでいる家に入る場合は、承諾がなければ入れないと条文に書かれています。隣に黙って足場を出す、隣の敷地に無断で入る、といった進め方は、あとで損害の請求や工事の中断につながります。
区によっては、解体の前に近隣へ説明することを求める指導要綱(区が出す行政指導の決まり)があります。例えば墨田区には「墨田区建築物の解体工事の事前周知に関する指導要綱」があり、発注者(工事を頼む人)と施工者に、近隣への説明、標識の掲示、区への報告書の提出を求めています。対象になる規模や提出の期限は要綱で決まっています。窓口は、建築指導課の構造担当です(墨田区の案内ページ、2026年4月更新)。工事を頼む売主も対象に入るので、業者任せにせず、誰が説明して誰が報告するかを決めておきます。
他の区については、確認できていません。売る土地のある区に同じ決まりがあるかどうかは、区役所の建築を担当する窓口に、「解体前に近隣へ説明する決まりはありますか」と聞くのが確実です。課の名前は区によって違います。
隣への伝え方は、売る土地の境界が決まっているかどうかにも関わってきます。境界の立ち会いで隣に協力をお願いする場面については、境界が決まっていない土地は売れる?で整理しています。
断られたときの進め方
隣に断られたときは、足場の組み方を変える道と、古家付きのまま売る道があります。解体を売主が進めなければならない決まりはありません。
足場の組み方を、業者と考え直す
隣の土地を使わずに済む方法を、現場に慣れた業者に聞いてみます。足場を使わずに壊す工法、道路側に張り出す足場、人の手で少しずつ壊す手壊し、シートや防音の養生を厚くする方法など、選べる道は現場ごとに違います。
ただし、こうした工法は費用や日数が変わります。どのくらい変わるかは見積もりで確かめるしかなく、この記事では金額を書きません。業者を選ぶときは、隣との距離が近い現場で、隣地を使わずに進めた経験があるかを聞いてみます。
隣に断られたときの、2つの道
自分で解体してから売る
- 足場の組み方や工法を変えて進める
- 費用や日数は、見積もりで確かめる
- 更地にして、買い手の範囲を広げやすい
古家付きのまま売る
- 解体は買い手が段取りする
- 隣との話し合いも、買い手の側が引き継ぐ
- 解体費を見込んで、価格が下がることがある
どちらが有利かは、土地の広さや買い手の見つかりやすさで変わるので、この表では「おすすめ」を付けていません。
古家付きのまま売る
古家付きで売ると、解体と隣への話は買い手の段取りになります。ただし、買い手は「隣との隙間が狭く、足場が組みにくい」という条件を見込んで、価格を決めます。この条件は、隠さず先に伝えておくほうが、あとのトラブルを防げます。古家付きと更地の比べ方は、古家付きのまま売るか、解体するかで詳しく比べています。
隣の家と壁がつながっている長屋の場合は、そもそも一戸だけを壊せるのかという別の問題が出てきます。この点は、連棟式住宅(長屋)の一戸だけを売るで扱っています。
話し合いでも決まらないとき
隣と話し合っても折り合いがつかないとき、裁判所を使う手続きもあります。法務省の資料は、隣地を使う権利があっても、拒まれたのに実力で入ることは原則として認められず、使うのを妨げないよう求める裁判(妨害禁止の判決)で進めることになると説明しています。ただ、その進め方は弁護士の領域です。売主が自分で判断する範囲を超えるので、この記事では手続きの中身には入りません。法律相談を受けられる窓口を使って、個別の事情を見てもらってください。
隣との関係は、売れたあとも続く
隣地使用の話は、解体が終われば終わり、とは限りません。隣との関係は、買い手が土地を買ってからも続くからです。
足場を出したときに隣の塀や壁を傷つけたら、直す約束を書面に残しておきます。償金(損害の埋め合わせ)の話も、解体の最中より、始める前に決めておくほうがもめません。傷の写真を、工事の前に撮っておくと、状態の確認がしやすくなります。
ポイント:
解体の前に隣と顔を合わせておくと、境界の確認や、売るときの測量の立ち会いもお願いしやすくなります。解体の話し合いの中身は、買い手に伝える材料にもなります。隣と何を約束したか、書面を残しておいてください。
家を壊す側として隣に迷惑をかける以上、隣の気持ちに配慮することが、結局は売却のスムーズさにつながります。小さな土地を売る全体の流れは、狭小地の売却の方法にまとめています。
解体にかかる費用や相場の幅は、複数の業者に現地を見てもらうとつかめます。隣との隙間が狭い現場でも、組み方によって見積もりは違ってきます。
よくある質問
Q. 隣に黙って、足場を少しだけ出してもいいですか?
おすすめできません。条文は、使う前に目的・日時・場所・方法を知らせることを求めています。連絡がつかないなど、あらかじめ知らせることが難しいときだけ、使い始めたあとすぐに知らせればよいとされています。少しだけでも、隣の所有者と実際に使っている人へ知らせるのが前提です。
Q. 隣の家が賃貸アパートのときは、誰に知らせればいいですか?
大家さん(所有者)と、実際に住んでいる借主の両方が対象になります。条文は「隣の所有者」と「隣を実際に使っている人」の両方に知らせるよう書いています。管理会社が窓口になっていることもあるので、まず管理会社に連絡先を聞いてみます。
Q. 隣が空き家で、持ち主と連絡がつきません
法務局で隣の土地の登記事項証明書を取り、載っている住所へ手紙を出すのが入口です。現地や登記簿、住民票などの公的な記録を調べても所在が分からないときは、「あらかじめ通知することが困難なとき」に当たり、使い始めたあとすぐに知らせれば足りる、と法務省の資料は例に挙げています。ただし、「調べても分からない」ことが前提です。調べた記録(手紙の控え、証明書、現地の写真)は残しておいてください。どこまで調べれば足りるかは個別の事情で変わるので、司法書士や弁護士などの専門家に、状況を見てもらってください。
Q. 隣に損害が出たら、費用は誰が払いますか?
条文は、隣が損害を受けたときに償金を請求できると定めています。誰がどのくらい払うかは、傷の程度や工事契約の内容で変わります。解体の契約書に、近隣への損害をどう扱うかが書かれているかを、契約の前に見ておくのが安全です。
Q. 隣との隙間が狭い古家は、買い手が付きにくいですか?
そうとは言い切れません。ただ、買い手は解体の手間を見込んで価格を考えます。隙間が狭いことや、隣に話を通した経緯があれば、買い手に先に伝えておくと話が進みやすくなります。
まとめ
- 隣との隙間がなく足場が自分の敷地に収まらないと、隣の土地の上か、前の道路の上に出す話になる。
- 家を壊すために隣地を使うことは、民法で認められている。使う前に、目的・日時・場所・方法を隣へ知らせるのが決まり。
- 人が住んでいる家に入るには、住んでいる人の承諾が要る。足場が隣に出せるかは、現場ごとに判断される。
- 順番は、業者に計画を書いてもらう、隣の所有者と使っている人を調べる、書面で知らせる、承諾をもらう、約束を残す、の流れ。
- 断られたら、足場の組み方を変えるか、古家付きのまま売る道がある。話し合いが行き詰まったら、弁護士に相談する。
出典:民法の隣地の使用の規定(e-Gov法令検索。改正前は2022年12月16日施行の版、現行は2026年6月24日施行の版を比較。改正は令和3年法律第24号、施行は2023年4月1日)。法務省「民法の改正(所有者不明土地等関係)の主な改正項目について」、法制審議会民法・不動産登記法部会資料18・59。墨田区公式ホームページ「道路占用許可申請(足場板囲、落下物防護用施設(朝がお)等)」「解体工事の事前周知報告書(解体工事指導要綱)」。解体や足場にかかる費用、区ごとの手続きの窓口は区によって異なるため、金額は記載していません。
隣との話の進め方や、古家のまま売るかの判断に迷うときは、手順を一緒に整理します。


