実家の庭に祠やお墓がある土地を売る|撤去できるか、誰に相談するか、買い手への伝え方
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古い家の庭の隅に、小さな祠(ほこら)がある。裏手に、墓石が並んでいる。相続で実家を受け継いだものの、これを残したまま売ってよいのか、壊してよいのか、誰に聞けばいいのかが分からず、手が止まっている方がいます。
この記事では、庭の祠や墓石がある土地を売るときに、先に分けておくことと、その後の順番を整理します。墓地、埋葬等に関する法律(墓埋法)の手続きが関わるのは、遺骨が埋まっている「お墓」の場合です。祠や石だけなら、法律の手続きとは別の話になります。
結論
まず「遺骨が埋まっているか」と「祠や石だけか」を分けることから始めます。埋まっているなら、移すには区の許可(改葬の許可)が要ります。祠や石だけなら許可は要りませんが、気持ちと作法の話になります。
どちらの場合も、撤去せずにそのまま売る道があります。買い手には、契約の前に必ず伝えてください。
先に答え|「お墓」と「祠・石だけ」で、手続きがまったく違う
結論から言うと、遺骨が埋まっている場所は「お墓」、埋まっていない祠や石は「信仰の対象」として分けて考えます。分け方を間違えると、必要な手続きを飛ばしたり、要らない手続きに時間を使ったりします。
庭にあるものの分け方
遺骨が埋まっている(お墓)
- 移すには、区の許可(改葬の許可)が要る
- 墓地として許可を受けた区域かどうかも関わる
- 誰が墓を守る立場かを確かめる
祠・石だけ(遺骨なし)
- 墓埋法に、動かす許可の定めは見当たらない
- 気持ちと作法の話になる
- 家の宗教や、昔からの付き合いに合わせて決める
祠には、家の敷地を守る神様をまつる「屋敷神(やしきがみ)」のように、昔から家ごとに受け継がれてきたものがあります。庭先の小さな石の社(やしろ)や、お稲荷さんの祠がその例です。何をまつっているか、いつからあるかは、家ごと・地域ごとに違います。
こと
すでに埋葬した遺骨や遺体を、別のお墓や納骨堂に移すことです。墓地、埋葬等に関する法律(墓埋法)で、改葬をするときは区市町村長の許可を受けるよう決められています。許可が下りると「改葬許可証」が出ます。
自分の庭にあるものが、お墓なのか祠なのか、判断がつかない場合もあります。昔の個人の墓は、墓石が立っているだけで、地中に何があるか見ただけでは分かりません。その場合は、家族・親戚・菩提寺(先祖の墓や供養をお願いしているお寺)に、まず聞いてください。古い写真や過去帳(お寺が持つ、亡くなった人の記録)に手がかりが残っていることがあります。
遺骨が埋まっている場合|移すには区の許可(改葬)が要る
庭に遺骨が埋まっているなら、墓石を動かしたり、土地を掘り返したりする前に、区役所で改葬の手続きを確かめることが必要です。先に壊してしまうと、取り返しがつきません。
法律では、埋葬した遺骨を別の墓に移すことを改葬と呼び、改葬をしようとする人は、遺骨のある場所の区市町村長(特別区では区長)の許可を受けなければならないとされています。許可を出すのは、遺骨がいまある場所の区です。引っ越し先の区ではありません。
もう1つ、押さえておきたいことがあります。墓埋法では、「墓地」を、墓地として都道府県知事(市や特別区では市長・区長)の許可を受けた区域と決めています。そして、埋葬は墓地以外の区域で行ってはならないとされています。また、墓地を経営しようとする人や、その区域を変えたり墓地をやめたりしようとする人は、許可を受けなければならないと決められています(特別区では区長が許可を出します)。
庭のお墓が、この「許可を受けた墓地」にあたるのかどうかで、売るときの扱いが変わるおそれがあります。ここは条文だけでは決まりません。墓埋法の附則(法律ができたときの経過の決まり)には、法律が施行された昭和23年6月1日の時点で、それまでの命令により都道府県知事の許可を受けて墓地を経営していた人は、新しい法律でも許可を受けたものとみなす、という定めがあります。ただ、自分の家の庭の古い墓が、この定めに入るのかどうかは、この定めだけでは分かりません。いつからある墓か、どんな許可の記録があるかは、家ごとに違うからです。
ですから、庭のお墓が「許可を受けた墓地」なのか、墓地をやめる許可が要るのかは、決めつけずに、区役所の窓口で聞いてください。墓石の写真と、分かる範囲の経緯(いつからあるか、誰が埋葬されているか)を持っていくと、話が早く進みます。窓口の部署名は区ごとに違うので、区役所の代表電話で「墓地や改葬を担当する窓口はどこか」と聞くのが確実です。
誰に頼めばいいかは、次のとおりです。
| やること | 頼む先・相談先 |
|---|---|
| 遺骨が埋まっているか、墓地の扱いはどうなるか | 区役所(改葬や墓地を担当する窓口。区によって部署の名前が違う) |
| 遺骨を移す先(新しいお墓・納骨堂)を決める | 菩提寺、霊園、納骨堂など |
| 墓石の撤去・運搬 | 石材店 |
| 供養(魂抜きなど) | 菩提寺、または神職 |
改葬の許可の申請に必要なものは、区ごとに決まっています。たとえば、墨田区の案内(2021年9月1日更新)では、申請書に、遺骨がいまあるお墓の管理者の証明をもらうことと、移す先のお墓の使用許可証か契約書(原本とコピー)が必要とされています。使用許可証などが手元になければ、申請書の移す先の管理者の欄で証明をもらう形です。世田谷区の案内(2023年4月1日更新)では、申請書(遺骨を埋葬または預けてある寺などの証明つき)、移す先の寺などの受入証明書または使用許可書、申請人の印鑑が挙げられています。
この2区だけでも、求められるものと言い方が違います。ほかの区は、必要書類も様式も違うことがあるため、お住まいではなく、遺骨がいまある場所の区の案内を確かめてください。案内は更新日が古いこともあるので、手続きの前に窓口へ電話で聞くのが確実です。
ここに
民法は、系譜(家系図など)、祭具(仏壇や位牌など、供養に使う道具)、墳墓(お墓)の所有権は、ふつうの相続のようには分けず、慣習に従って先祖の祭祀(供養や墓の守り)を主宰する人が受け継ぐ、と決めています。ただし、亡くなった人が指定していたときは、その人が受け継ぎます。慣習がはっきりしないときは、家庭裁判所が決めます。この受け継ぐ人を「祭祀承継者」と呼びます。兄弟みんなで分けるものではありません。売却の話し合いの前に、誰が受け継ぐ立場なのかを、家族の間ではっきりさせておくと、あとで揉めにくくなります。決まらないときは、弁護士や家庭裁判所に相談してください。
土地の相続そのものの進め方は、相続した土地を売るための相続手続きで整理しています。親族が複数いて意見が分かれるときは、遺産分割協議書の書き方も参考になります。
祠や石だけの場合|法律の手続きではなく、気持ちと作法の話
遺骨が埋まっていないなら、祠や石を動かすのに、区の許可は要りません(墓地、埋葬等に関する法律には、遺骨のない祠や石を動かす許可の定めは見当たりません)。その代わり、「どう扱うのが自分たち家族にとって納得できるか」を決める必要があります。
屋敷神のように、昔から家で手を合わせてきたものは、ただの石や木の箱とは感じられない方がいます。逆に、「親の代の管理だったので、思い入れが分からない」という方もいます。どちらが正しいということはありません。
迷ったときは、次の順番で聞いていきます。
- 家族・親戚に聞く。 誰が世話をしていたか、年に一度のお祭りや掃除があったかを確かめます
- 菩提寺があるなら、そこに聞く。 宗派によって、呼び方も作法も違うことがあります。自己流で進めず、お寺の考え方を先に聞いてください
- まつっている神様が分かるなら、神社に聞く。 祠がお稲荷さんなど神道のものなら、神職(神社の人)が相談先になります
- 町内会や近所の古くからの住民に聞く。 地域で共同でまつっていた祠の場合、家の判断だけでは決められないことがあります
最後の点は、見落としやすいところです。敷地の中にあっても、祠が地域の人たちみんなでお参りしてきたものなら、「勝手に撤去された」と受け取られると、売ったあとにまで気まずさが残ります。先に近所へ一言入れておくほうが、買い手にとっても安心です。
供養の仕方は、宗派や地域で違います。墓石や仏像を移す前に、僧侶にお経をあげてもらう供養があり、「魂抜き」「閉眼供養」などと呼ばれることがありますが、呼び名も作法も宗派や地域で違います。神道には神道の作法があります。どれが自分の家に合うかは、菩提寺があるならそこに、なければ神社やお寺に聞いてください。
そのまま売る道|撤去せずに、買い手に伝える
祠や墓石を撤去せずに、そのまま売る道も選べます。壊したものは元に戻せません。どう扱うか決められないうちは、そのまま売り出す形も、検討に入れていい選択肢です。
そのまま売るときに、売主がやることは次のとおりです。
- 売り出す前に、祠や墓石の位置・大きさ・何をまつっているかを書き出す。 写真と、敷地の図面に位置を書き込んだものを用意します
- 遺骨が埋まっているか、はっきり伝える。 分からない場合は、「不明」と書く。分かっているのに隠すと、契約のあとで揉めるもとになります
- 買い手が建てる家の邪魔になる位置かを確かめる。 邪魔なら、買い手は撤去を考えます。その場合の費用と段取りも、先に話しておくとスムーズです
- 契約書に「撤去する物としない物」を書く。 撤去はしない、買主が自分で供養して撤去する、など決め方を文面にします
買い手の中には、祠や墓石があるだけで、購入をためらう方がいます。一方で、事情を理解した上で、整理する前提で買う人もいます。どちらの反応があるかは、売り出してみないと分かりません。伝え方の考え方は、事故物件の告知を扱った事故物件の売却と告知義務と同じで、知っていることを、契約の前に書面で伝えるのが基本です。免責の特約の考え方は、契約不適合責任の免責で確かめられます。
仲介で買い手が見つかりにくいときは、訳ありの土地を専門に扱う買取会社に、今の状態のまま見てもらう道もあります。ただし、買取は仲介より価格が低くなりやすいことと、対象の土地や地域が会社ごとに違うことは、あらかじめ知っておいてください。選び方は訳あり土地を買い取る業者の種類と選び方にまとめています。
撤去を決めたときの順番|供養 → 手続き → 石材店
撤去すると決めたら、順番は「供養 → 区の手続き → 石材店の作業」です。石材店に先に頼んでしまうと、供養や手続きの前に作業が進んでしまうことがあるので、気をつけてください。
祠・お墓を撤去するときの順番
- 遺骨の有無を確かめる家族・親戚・菩提寺に聞く。区役所にも相談する
- 誰が決める立場かを決めるお墓を守る人、祠の世話をしてきた人、地域の人に話を通す
- 供養の相談菩提寺、または神社に、やり方と日取りを聞く
- 改葬の許可(お墓の場合)移す先を決め、区役所で許可を受ける
- 石材店に見積もりを頼む撤去・運搬・処分の内訳を出してもらう
- 撤去・引き渡し契約書で決めた日までに終える
石材店の見積もりは、墓石の大きさ、重機が入れるか、運び出す距離で変わります。金額は現地を見ないと出ないので、ここで数字は書きません。複数の石材店から、項目ごとの内訳つきで受け取り、比べてください。供養へのお布施についても、お寺や神社によって考え方が違うため、先に聞いておくと安心です。
撤去する場合も、売買契約書の特約で撤去の範囲と期限を決めます。決め方は庭木・ブロック塀などの付帯物を撤去する場合の決め方の特約の節と同じ形です。家も一緒に壊すなら、木造の解体費用の記事も確認しておきます。
売り
- 遺骨が埋まっているか、家族・菩提寺・区役所で確かめたか
- お墓を守る立場の人(祭祀承継者)が誰か、家族で共有したか
- 祠を世話してきた人や、地域の人に話を通したか
- 供養のやり方を、菩提寺か神社に聞いたか
- 祠・墓石の位置と写真を、図面つきで用意したか
- 契約書に、撤去する物としない物を書く準備ができたか
祠やお墓のある土地をどう売るか、分からないままの状態でも構いません。売り方の整理から一緒に確かめます。
よくある質問
Q. 庭の祠を、役所の許可なく壊してもいいですか?
遺骨が埋まっていない祠や石であれば、墓地、埋葬等に関する法律には、祠や石を動かす許可の定めは見当たりません。ただ、法律とは別に、家族・親戚・地域の人との関係があります。壊す前に話を通し、お寺や神社にやり方を聞くほうが、あとでこじれません。
Q. 墓石を撤去するだけで、遺骨はそのままにしておいてもいいですか?
遺骨が埋まっているなら、墓石だけ撤去して遺骨をそのままにすることは、勧められません。遺骨を別の墓に移す(改葬)なら、区の許可が要ります。移さずに残す場合も、売る土地に遺骨が残ることを買い手に伝える必要があり、売りにくくなる可能性があります。区役所と菩提寺に先に相談してください。
Q. 魂抜きは必ず必要ですか?
墓埋法に、魂抜きを定めた条文は見当たりません。するかどうか、どう呼びどう行うかは、宗派や地域、家の考え方で違います。菩提寺があるなら、そこに聞くのが確実です。
Q. 祠やお墓があることを、買い手に黙って売ってもいいですか?
黙って売るのは避けてください。契約のあとで見つかると、買主から撤去費用を求められたり、契約を解除されたりするおそれがあります。分かっていることは契約の前に書面で伝え、分からないことは「不明」と書きます。
まとめ
- 庭の祠や墓石は、まず「遺骨が埋まっているか」と「祠・石だけか」を分ける
- 遺骨が埋まっているなら、移すには区の許可(改葬)が要る。墓石を先に壊さず、区役所に聞く
- 祠・石だけなら、許可は要らないが、家族・菩提寺・地域の人に話を通す。供養の仕方は宗派や地域で違う
- 撤去せず、そのまま売る道もある。ただし買い手には、契約の前に書面で伝える
- 撤去するなら、供養 → 区の手続き → 石材店の順番で進め、契約書で範囲と期限を決める
出典:墓地、埋葬等に関する法律(e-Gov 法令検索、版 323AC0000000048_20250601_504AC0000000068、施行日 2025年6月1日。「墓地」の定義、改葬の許可、墓地の許可、附則の経過措置)、民法(e-Gov 法令検索、版 129AC0000000089_20260624_508AC0000000045、施行日 2026年6月24日。祭祀に関する権利の承継)、墨田区「改葬許可申請」(2021年9月1日更新)、世田谷区「改葬許可申請」(2023年4月1日更新)。

