借地権を相続したら|地主への連絡・名義変更と、その後の売却
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親が亡くなり、家の権利関係を確かめてみたら、建っている土地は他人のものだった。相続の手続きを始めてから、初めてそのことに気づく方は少なくありません。土地を借りて家を建てている状態を、借地(しゃくち)といいます。
「地主さんに何て言えばいいんだろう」「勝手に相続していいものなのか」。分からないことだらけで、不安になるのも無理はありません。
この記事は、借地権を相続した直後にやることに絞って書きました。地主への連絡、契約書の名義変更、地代の支払い、相続人が複数いるときの注意点まで、順番に整理します。承諾料の相場や売り先の比較といった「売る段階」の詳しい話は、後半で紹介する記事に譲ります。
結論
借地権を相続すること自体に、地主の承諾も名義書換料も原則いりません。亡くなった方の権利をそのまま引き継ぐ「包括承継」だからです。
ただし、油断は禁物です。地代の支払いを止めないこと、建物の相続登記を済ませること、相続人が複数いるなら早めに話し合うこと。この3つを怠ると、あとの売却が難しくなります。
借地権を相続するのに、地主の承諾はいらない
結論から言うと、借地権を相続すること自体には、地主の承諾は必要ありません。名義書換料(承諾料)を払う必要もないのが原則です。
相続は、亡くなった方が持っていた権利や義務を、まとめてそのまま引き継ぐ手続きです。これを法律用語で「包括承継」といいます(民法の相続の効力の規定)。借地権も、亡くなった方の財産の一部として、当然に相続人へ移ります。地主が「相続は認めない」と言うことはできません。
こと
相続人が、亡くなった方の権利と義務をまとめてそのまま引き継ぐことです(民法の相続の効力の規定)。借地権のように「人に譲るには相手の承諾がいる」権利でも、相続のときだけは例外で、承諾なしに引き継がれます。承諾が必要になるのは、引き継いだあとに人へ譲るとき(売却など)です。
ここを混同している方が案外多いのですが、「相続する」ことと「売る」ことは別の話です。相続した借地権を第三者に売るときは、あらためて地主の承諾が必要になり、承諾料を求められるのが一般的です。売り先ごとの承諾料の考え方や、地主・第三者・買取専門業者・底地とセットでの売却といった選び方は、借地権付きの家の売却方法で詳しく説明しています。
なお、例外もあります。遺言によって、法定相続人ではない人(内縁の配偶者や、お世話になった知人など)に借地権を譲る「遺贈」の場合は、通常の譲渡と同じく地主の承諾が必要です。多くの方が該当する「配偶者や子が相続する」ケースでは、気にしなくて大丈夫です。
まだ相続するかどうか自体を迷っている段階なら、いらない土地を相続したら|相続放棄・売却・国庫帰属を比べるもあわせて読んでみてください。借地権も、相続放棄をすれば手放すことになります。
借地権を相続してから、やることの全体の流れ
相続に承諾はいらないとはいえ、やることが何もないわけではありません。契約を良好なまま維持し、いずれ売るときにも困らないよう、次の順番で進めます。
借地権を相続してから、当面やることの流れ
- 地主に相続の連絡をする誰が相続人になったか、落ち着いたタイミングで伝える
- 地代の振込先を確認する支払いが止まらないよう、早めに引き継ぐ
- 建物の相続登記をする法務局で、建物の名義を相続人に変える(義務・期限あり)
- 相続人どうしで持ち方を決める複数いる場合は、誰が引き継ぐか話し合う
このあと、各ステップを順番に見ていきます。並行して進めてもかまいませんが、地代の支払いだけは、他の手続きより先に確保しておくと安心です。滞納は、あとで契約そのものを揺るがしかねません(後の章で説明します)。
地主への連絡と、契約書の名義変更
地主への連絡は、法律上の義務ではありません。それでも、できるだけ早めに一言伝えておくことをおすすめします。地代の振込先や、今後の契約のやり取りが、誰宛てになるのかがはっきりするからです。
伝える内容は、そう難しくありません。亡くなった方の名前、相続人になった自分の名前と連絡先、地代の今後の振込先や支払い方法の確認。この3つがあれば十分です。口頭でも構いませんが、あとで「言った・言わない」にならないよう、簡単な書面や手紙にしておくと安心です。
借地権の名義変更は「登記」ではない
ここで、混同しやすい点を整理しておきます。借地権そのものの名義変更は、法務局で行う登記ではありません。地主への連絡・確認で足りるのが基本です。
一方で、土地の上に建っている「建物」は、相続人の所有物です。建物の名義は、法務局で相続登記をして変える必要があります。しかも2024年4月からは、相続登記が義務になりました。
借地権と建物とで、やることも期限もまったく違います。表にすると、次のようになります。
| 対象 | やること | 期限・義務 | 窓口 |
|---|---|---|---|
| 借地権(土地を借りる権利) | 地主への連絡・地代の振込先の確認 | 法律上の期限はない(早めが望ましい) | 地主・管理会社 |
| 建物(相続人の所有物) | 相続登記(名義変更) | 知った日から3年以内。怠ると過料10万円以下 | 法務局 |
正当な理由なく期限を過ぎると、10万円以下の過料の対象になります。期限の数え方や必要書類、自分で申請するか司法書士に頼むかの考え方は、相続登記の義務化とは?期限・過料と、売る前にやることで詳しく説明しています。この記事は土地の相続登記を中心に書いていますが、建物の相続登記も同じ仕組みです。
余談ですが、借地権を借りている人(借地権者)は、自分の借地権そのものが登記されていなくても、建物が自分の名義で登記されていれば、その借地権を第三者に主張できます(借地借家法の、借地権の対抗力についての規定)。土地の所有者が変わっても住み続けられるのは、この仕組みのおかげです。だからこそ、建物の名義を自分(相続人)に変えておくことが、思っている以上に大事なのです。
ここに
相続の連絡をしたときに、地主から「名義書換料」や「承諾料」を求められることがあります。法定相続人が相続する場合、法的にはこれを支払う義務はありません。ごくまれに、契約書に相続の場合も名義書換料を払う旨の特約が定められていることがあります。まずは契約書を確認し、強い態度で突っぱねる前に、なぜ請求してきたのか事情を丁寧に聞いてみるとよいでしょう。判断に迷うときは、弁護士や司法書士に相談してください。
地代は誰が、いつから払う?滞納のリスク
相続は亡くなった瞬間に始まり(相続開始)、地代を支払う義務もその時点で相続人に引き継がれます(民法の相続の効力の規定)。「相続の手続きが終わるまでは払わなくていい」わけではありません。ここを勘違いして支払いが止まると、思わぬトラブルにつながります。
相続人が複数いて、まだ遺産分割の話し合いが終わっていない間は、それぞれの法定相続分に応じて地代を負担する、という考え方が一般的です。とはいえ、毎月バラバラに振り込むのは現実的ではありません。実務では、代表の相続人を1人決めて、いったんまとめて払っておくケースが多いです。
地代の
- これまでの振込先(口座・地主本人か管理会社か)
- 今後の振込先に変更がないか
- 直近の地代に、未払い・滞納がないか
- 次の更新時期と、更新料の取り決めの有無
地代の滞納は、借地契約を解除される理由になりえます。相続の混乱の中でつい後回しにしてしまいがちですが、他の手続きより優先して確保しておきたいポイントです。振込先が分からなくなってしまった場合、地主が受け取りを拒んでいる場合、地主側の相続人がまだ確定していない場合などは、地代を法務局(供託所)に預けることで支払ったのと同じ扱いにできる「供託」という制度があります(法務省・法務局「供託Q&A」)。申請先や必要書類はケースによって変わるため、詳しい手続きは司法書士や弁護士に確認してください。
相続人が複数いるとき|遺産分割と共有のリスク
借地権を相続する人が複数いる場合、遺産分割協議で誰が引き継ぐかを決めるまでの間、いったん共有の状態になります。土地そのものの共有名義と、考え方はよく似ています。
このまま「とりあえず」で共有にしていると、あとで困るのが売却の場面です。共有のままの借地権を売るには、共有者全員の同意が必要になります。1人でも反対すれば、売ることができません。兄弟の1人と連絡が取りづらい、意見が割れている。そういった事情があるなら、なおさら早めに話し合いを始めておくべきです。
共有名義になったときの同意の集め方や、自分の持分だけを手放す方法は、次の記事にまとめています。
誰か1人が単独で借地権を引き継ぐ形で遺産分割協議がまとまれば、この問題は起こりません。地代の負担者や、建物の相続登記の名義人もその1人に絞られ、その後の管理や売却の判断もシンプルになります。相続人どうしで話し合う際は、「誰が住むのか・誰も住まないなら売るのか」を早い段階で共有しておくとよいでしょう。
借地権の相続税評価|路線価と借地権割合の考え方
相続税の申告が必要な場合、借地権にも評価額がつきます。目安になるのが、国税庁の路線価図に載っている「借地権割合」です。更地としての評価額に、この割合を掛け合わせたものが、相続税を計算するときの借地権の評価額になります。ただし、これはあくまで相続税を計算するための評価方法であり、実際に売れる値段とは別物です。
借地権割合の記号(AからGまで)の詳しい見方や、売却価格を考えるときの手がかりとしての使い方は、借地権付きの家の売却方法で説明しています。
相続税がかかるかどうか、いくらになりそうかは、土地の評価額だけでなく遺産全体の状況によって変わります。具体的な税額の計算や申告の要否は、税理士に確認してください。
相続した借地権、その後の売り方
建物の相続登記が済み、相続人どうしの話し合いも整ったら、この先どうするかを考える段階です。選択肢は大きく3つあります。
相続した借地権、その後の選択肢
住み続ける
- 地代を払い続ける
- 建て替えには承諾が必要なことが多い
- いちばん手間がかからない
売る
- 地主・第三者・買取業者などから選ぶ
- 売るには地主の承諾が必要
- 承諾料がかかるのが一般的
地主に返す(合意解約)
- 建物を解体して更地で返すことが多い
- 権利金などは通常もらえない
- 解体費用は自己負担になりやすい
家族の誰も住む予定がなく、地代を払い続けるのも負担というなら、売却を検討することになるでしょう。売り先には、地主に買い取ってもらう、第三者に売る、借地権の買取を専門にする業者に売る、地主と協力して底地とセットで売る、という4通りがあります。承諾料の考え方や、それぞれの向き不向きは借地権付きの家の売却方法|承諾料は誰が払うか・売り先の比較で整理しています。
買い
相続した借地権を買い取る会社の担当者が、最初に確認するのは「相続人は何人いて、名義はもう整理されていますか」という点です。相続人が複数いて話し合いがまとまっていないと、そもそも契約に進めません。逆に名義がすっきり整理されていて、地代の滞納もなければ、地主との交渉も進めやすく、評価しやすい案件になります。
貸主(地主)の立場で、逆に底地を手放したい方は、底地を借地人や買取業者に売る流れを参考にしてください。
借地権は、権利関係が絡むぶん、ふつうの仲介では買い手が見つかりにくいことがあります。訳ありの不動産を専門に買い取る会社なら、地主との調整を含めて、今の状態のまま買取価格を出してもらえることがあります。
よくある質問
Q. 借地権を相続したら、まず何をすればいいですか?
地主に相続の連絡をし、地代の振込先を確認することから始めます。あわせて、建物の相続登記(義務・期限あり)を進め、相続人が複数いるなら早めに持ち方を話し合ってください。相続そのものに地主の承諾はいりません。
Q. 地主に相続の連絡をしないと、何か問題がありますか?
連絡自体は法律上の義務ではありません。ただし、地代の振込先が分からないまま放置すると、支払いが止まってしまう原因になります。地代の滞納は契約解除の理由になりえるため、連絡と振込先の確認は早めに済ませておくことをおすすめします。
Q. 名義書換料を請求されたら払わないといけませんか?
法定相続人が相続する場合、法的に支払う義務はありません。ただ、今後の付き合いもあるので、頭ごなしに断る前に、地主がなぜ請求してきたのか事情を聞いてみるとよいでしょう。判断に迷う場合は弁護士や司法書士に相談してください。
Q. 相続人が複数いる場合、借地権はどうなりますか?
遺産分割協議で誰が引き継ぐか決まるまでは、共有の状態になります。共有のまま借地権を売るには、共有者全員の同意が必要です。早めに話し合い、できれば1人に引き継ぐ形でまとめておくと、その後の管理や売却がシンプルになります。
Q. 借地権を相続してすぐに売ることはできますか?
建物の相続登記を済ませたうえで、地主の承諾を得られれば売却できます。相続そのものには承諾がいりませんが、売る段階では別途、地主の承諾と承諾料が必要になるのが一般的です。詳しい進め方は借地権付きの家の売却方法を参考にしてください。
まとめ
- 借地権の相続そのものに、地主の承諾も名義書換料も原則いらない(民法の包括承継の規定)。
- 借地権の名義変更は法務局の登記ではないが、建物の相続登記は義務で、知った日から3年以内という期限がある。
- 地代の支払い義務は、亡くなった瞬間(相続開始の時)から相続人に引き継がれる。滞納は契約解除の理由になりえるため、振込先の確認を優先する。
- 相続人が複数いるなら早めに話し合う。共有のまま放置すると、あとで売るときに全員の同意が必要になる。
- 相続税評価は路線価図の借地権割合が手がかりだが、実際に売れる値段とは別物。税額の判断は税理士に確認する。
- その後どうするか(住み続ける・売る・地主に返す)で迷ったら、状況を整理するところから始めるとよい。
借地権のほかにも、底地・再建築不可・共有持分など、売りにくい理由はいろいろあります。種類ごとの入口は訳あり不動産・訳あり土地とは?種類別の売り方と買取の使いどころにまとめました。
地主にどう伝えればいいか、相続人どうしでどう話をまとめればいいか。迷っているなら、状況を一緒に整理します。



